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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)1355号 判決

上告人 山崎栄代治

被上告人 新潟県知事

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士小出良政の上告理由は別紙のとおりである。

原判決の確定するところによれば、大崎農業共済組合は、昭和三〇年五月八日第七回総会において、理事の任期満了に伴う新理事の選挙を投票の方法によらないで行い、その旨役員変更の登記も経由したというのである。農業災害補償法三一条四項は、役員の選挙は無記名投票によつて行うべきことを規定しており、右選1挙が違法であることは明白である。また、原審における上告人の主張によれば、右総会は選挙権者総数の半数以上の出席という要件をみたしていなかつたというのであるから、若し上告人主張のとおりであれば、この点からも右の新理事の選挙は違法であるといわなければならない。しかし、この選挙について、当時の同法八一条によつて行政庁に対し選挙または当選の取消を請求した者もなく、また、行政庁が取り消した事実も認定されていないのである。もとより、同条による取消がなくても、選挙が当然に無効と考えられる場合もないではないであろうが、上述のような手続上の違法があつたからどいつて、それだけで新理事の選挙が取消をまたず当然に無効であるとはいえないのである。原判決の確定するところによれば、かくして選挙された新理事は、他の三組合の代表者との間に、合併議決を停止条件とする合併契約を締結し、昭和三一年二月五日、これらの理事によつて招集された第三回臨時総会で合併議決が行われ、ついで、三月二六日被上告人の本件合併認可処分があつたというのである。上述のように理事の選挙が違法ではあるが必ずしも無効とはいえない本件の場合において、被上告人が本件合併を認可するに際し、前述選挙の違法を看過したからといつて、この認可処分を無効といえないことはもちろんのことといわなければならない。原判決の説明は右と異るけれども、認可処分の無効確認を求める上告人の請求を容認しなかつたのは結局正当に帰し、上告人の本件上告も理由がないことに帰する。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田八郎 池田克 河村大助 奥野健一 山田作之助)

上告代理人小出良政の上告理由

原判決は法令の違背がある。

(一) 原判決は農業共済組合の「公認の理事の選任が行われたが、その選任が法律上無効とされる場合」法律上無効な選任により理事に就任したとし理事の職務を執行したのに対し、農業災害補償法(以下法と略称)第三二条第三項を適用した違背がある。

無効な選任により理事に就任したとして、主観的にも客観的にも新任理事として職務を執行した(右は争いのない事実であり、任期満了により退任した理事であつても後任の理事として選任されなかつた者は何等前記法条による退任理事としての職務執行に参加していない)のに偶々無効な選任により就任した理事中任期満了により退任した理事がいたからといつて其者の行為のみに理事としての権限を認めることは不当である。

該法条は理事でない者に暫定的に理事の職務を執行することを許容した規定たるに止り、右地位にあつたにもかゝわらず右法条による職務執行をしなかつた場合に迄適用さるべきでない。

(二) 原判決は、民法(以下法と略称)第五二条第二項の適用を誤つた法令の違背がある。

同法条にいう「理事の過半数」とは「理事定数の過半数」と解すべきである。そう解さないと右法条は実質的に無意味に帰する場合があるからである。例えば理事の定数が三名で内二名が欠員となつている場合現に理事である者一名で総て内部的決定がなされることゝなり独裁を防ぐことができなくなる。

右解釈が正しいとすれば十一名(定数)の理事中五名の賛成による総会招集の決議は無効である。

原判決は現に理事たる者九名中五名が賛成しているのだから前記招集の議決は有効である旨の第一審判決を支持しているが失当である。

又本件総会招集の決議には現に理事の地位にある者九名中四名が参加せず理事の地位にない者五名が参加してなされた。原判決は「その決定の方法についてはなんら限定をしていない」から右の事実があつても「みぎ決定が有効であることにはかわりはない」としているが、この点については正当な理事でない者の関与した理事会の決議は無効であるとした裁判例(昭和二七年(ネ)第八五二号同年一一月一日東京高裁判決・下級民集三巻一一号一五四三頁)や各理事の総てに対し意見を陳述し決議に参与し得る機会を与えたのでなければ結果的には過半数の一致した意見があつても有効な決議でない旨の裁判例(昭和一三年(モ)第四〇四九号同一五年四月一二日東京民事地裁判決・評論二九巻民法五六九頁)もある。

本件は無効な選任により理事に就任した者十名がなした決議で職務執行権を有する退任理事現存者九名中四名については意見を陳述し決議に参与する機会を与えられなかつたものである。法が「その決定の方法についてはなんら限定していない」との消極的理由で理事の地位に在る者九名中四名に決議に参加する機会を与えず理事の地位にない者五名を参加させ理事会の決議として総会の招集を決定することが是認されるとすれば法人の事務は特別の定めのない場合理事のみが決するとした法意は没却されることゝなる。

原判決は法第五二条二項の解釈適用を誤つたものである。

(三) 任期満了による理事の退任後に理事の定数の増減があつても右定数の増減は農業災害補償法第三二条第三項による選任理事の職務の執行に対し何等影響がないとする原判決は法令の解釈を誤つたものである。

法人の事務は理事の過半数で決するとの法意が理事定数の過半数の意であるとの(一)の主張からは定数の増減は右退任理事の職務執行にも影響を及ぼすことは明らかである。

以上

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